大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(ワ)4912号 判決

原告 近藤彩子

右訴訟代理人弁護士 佐藤哲郎

同 阿部真一

被告 朴暎照

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の土地および建物につきいずれも東京法務局芝出張所昭和四二年一月六日受付第九一号をもってした停止条件付賃借権設定仮登記の抹消手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、別紙目録記載の土地および建物(以下本件不動産という)は、いずれももと訴外三和石油株式会社の所有であったが、右訴外会社は昭和三九年七月一八日訴外港信用金庫との間で本件不動産につき極度額五〇〇〇万円の根抵当権設定契約を締結し、東京法務局芝出張所昭和三九年八月二六日受付第二、四一六号をもって根抵当権設定登記がなされた。ついで本件不動産に対し右信用金庫は右根抵当権実行のため競売を申立て昭和四三年七月六日東京地方裁判所の競売開始決定により、同出張所昭和四三年七月一〇日受付第一〇、五七三号をもって任意競売申立の登記がなされ、昭和四四年七月三日同裁判所の競落許可決定を経て、訴外石黒勝美が本件不動産を競落し、同年八月一一日所有権移転登記をした。

原告は昭和四四年八月一八日に右石黒よりこれを買受け所有権を取得し同出張所昭和四四年八月一九日受付第一四、〇〇六号をもって所有権移転の登記手続を了し、現にこれに居住している。

二、ところで、本件不動産については東京法務局芝出張所昭和四二年一月六日受付第九一号をもって、被告を権利者とする停止条件付賃借権設定仮登記が存し、その内容は次のとおりである。

イ  原因 昭和四一年一二月一五日停止条件付設定契約(条件同日付金銭消費貸借契約の金百万円の債務不履行)

ロ  借賃 一ヶ月土地につき三〇〇〇円、建物につき一万円、

ハ  支払期 毎月末日

ニ  存続期間 三年

ホ  特約 譲渡、転貸ができる。

三、右賃借権設定仮登記は、第一項の根抵当の後になされたものであり右仮登記された賃借権は民法三九五条にいういわゆる短期賃借権である。

しかし右仮登記は競売申立登記までに本登記がなされず、且つ被告が本件不動産の占有を取得したこともないから、競落人に対抗しえず、従って競落人よりこれを買い受けた原告にも対抗しえず、抹消されるべきである。

被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

原告主張の請求原因一、二項の事実は、民事訴訟法一四〇条三項、一項により被告が明らかに争わないものと認めこれを自白したものとみなす。

ところで、原告は、本件仮登記の目的となった賃貸借が民法三九五条にいう短期賃貸借であるとしても、競売申立登記までに本登記がなされず且つ被告が本件不動産の占有を取得していない限り、競落人および競落人から本件不動産の所有権を取得した原告に対抗できない旨主張するのであるが、競売申立登記後において右仮登記にもとづく本登記をなすことが許されないとは解し難く、そして競売申立登記後に本登記がなされれば、その短期賃貸借は仮登記の日に遡って競落人およびその承継取得者に対抗し得るというべきであるから、原告の右見解は採用できない。

しかし反面、民法三九五条但書において、抵当権者に損害の及ぶことを要件として短期賃貸借の解除を請求する権利が認められているとは言え、本件のごとき仮登記のある停止条件付賃借権について、競売申立登記後においても無限定に停止条件成就による本登記が許されこれを競落人に対抗し得るものとするのは、徒らに不動産競落後の利用関係を不安定にし、ひいては不動産抵当権の担保機能を低下させる結果を招来することになるのは明らかであり、それは、不動産抵当権と利用権の調和をはかろうとする民法三九五条の立法趣旨に副うものでないと考える。右立法趣旨に照らせば、本件のような仮登記のある停止条件付短期賃借権については、競売申立登記前に実体上その条件が成就し賃借権が発生している場合に限り競売申立登記後において本登記をなして競落人に対抗し得るものと解するのが相当というべきである。

しかるところ、本件においては、被告が本件不動産の登記前に仮登記にかかる停止条件が成就し賃借権が発生して本登記をなし得る状態にあることの主張立証がないから、被告は、仮登記にかかる右停止条件付賃借権をもって原告に対し主張できなくなり右仮登記を抹消する義務を負うに至ったというべきである。

よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容し、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柿沼久)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例